局所アレルギー性鼻炎(Local Allergic Rhinitis, LAR)
⚠️ 医療者向け研究レビュー。診療判断・医学的助言ではない。最終判断は一次資料と専門家の評価による。 最終更新: 2026-06-04 / 反映論文: 22件(背骨=2024 scoping review[全文精読]+LAR診断管理課題総説[全文精読]+Th2マーカー診断精度MA+AIT/LNITのSR/MA 2件+アジア地域差総説+AITガイドライン+ナラティブレビュー+LAR総説+小児論説+HDM-SLIT大規模MA+ILITアンブレラ+AIT臨床評価+混合アレルゲンAIT小児+アデノ扁桃局所アトピー+AR全身性免疫調節+LAR専門家総説[Campo]+LNIT実臨床コホート+全身感作AR-SCIT 3件) / 未レビュー
サマリ(現時点の到達点)
局所アレルギー性鼻炎(LAR)は、全身的アトピー(皮膚プリックテスト・血清特異的IgE)が陰性でありながら、鼻粘膜局所でのアレルゲン特異的IgE産生と2型炎症を呈し、鼻誘発試験(NAC/NAPT)が陽性となる鼻炎の一型である。1970年代の鼻汁中特異的IgE検出に端を発し、Powe らが "entopy"(局所的アレルギー反応)と概念化、2009年に Róndon が "LAR" を疾患実体として提唱した。臨床的に重要なのは、従来「非アレルギー性鼻炎(NAR)」と診断されてきた患者の相当割合が実は LARである点で、成人・小児ともに NAR と分類された患者の再評価が必要とされる。診断のゴールドスタンダードは標準化された鼻誘発試験で、鼻汁特異的IgE・好塩基球活性化試験(BAT)が補助となる。治療は AR に準じ、回避・局所ステロイド/抗ヒスタミン薬・アレルゲン免疫療法(AIT)で、AIT(SCIT/SLIT/LNIT)の短期有効性が複数のSR/MAで支持される一方、長期予後・小児・全身感作への進展のエビデンスは不足している(confidence:medium〜low)。
カバレッジ(この知識の確からしさ範囲)
- 背骨(anchor): — scoping review・2024(Life, Berghi)。全文精読済。PRISMA フロー・2群×2名独立スクリーニング+第3者調停で51本採択。定義の歴史・疫学・病態・診断(NAC標準化)・成人/小児研究を網羅。OA でない38375713(ナラティブレビュー)から背骨を格上げ。
- 反映範囲: 背骨に加え、アレルゲン別局所感作・縦断予後・AIT試験をLAR診断管理課題総説[PMID:37241161, 全文精読]、疫学の地域差をアジア総説、治療を LAR向けAITのSR/MA・AR向けLNITのSR/MA・吸入アレルゲンAITのガイドライン、診断の将来展望を AR新規モダリティ総説、小児を論説で補足。LAR専門家総説で診断アプローチ提案を併記。
- 全文精読: (背骨)・(LAR診断管理課題総説。Rondón10年追跡・Bożek AIT2試験・Gelardi警鐘を具体値で取得)。
- 暫定(全文未取得 provisional-abstract): ・・・・・・・・(Th2マーカー診断精度MA)。AIT/LNIT の効果量はほかで具体値あり。各試験のRoB/I²/サブ群は未確認で全文入手時に昇格。
- アンカー判定メモ: ARIA-EAACI GL 2024-2025 Part I(、intranasal treatments)は全文確認したがLAR・entopy・鼻誘発試験・局所IgEへの言及がなく不採用。AIT for asthma・舌下錠AITのアナフィラキシーはLAR本体への寄与がなく(喘息/AIT安全性は別トピック)却下。AITナノ粒子総説・デジタルバイオマーカー・小児AIT安全性・ARIA開発方法論はいずれも汎AR/AIT/GL方法論一般でLAR・entopy・局所IgE・NAPTへの言及がなく却下。
- 飽和目標: LARの診断研究(NAC のプロトコル/カットオフ・鼻汁特異的IgE・BAT)とAITのRCT全文を次回優先で取得し、SR/MA中心の背骨へさらに強化する。
定義・概念
- LAR = 全身的アトピー(皮膚プリックテスト陰性・血清特異的IgE陰性)を伴わないが、鼻粘膜局所でアレルゲン特異的IgEを産生し2型炎症を呈する鼻炎で、鼻誘発試験が陽性となる。
- 概念史: Tse ら(1970年代)が鼻汁中ブタクサ特異的IgEを、Huggins ら(1975)が全身検査陰性のダニ鼻炎患者で局所特異的IgEを検出。Powe らが鼻汁中特異的IgE陽性の局所的アレルギー反応を "entopy" と命名し、Róndon が2009年に LAR を疾患実体として提唱した。
- AR と LAR の併存型は dual allergic rhinitis(DUAL) と呼ばれる(Eguiluz-Gracia)。通年性症状で季節性アレルゲンのみ皮膚テスト陽性の患者の多くが、NAC で季節性・通年性双方に陽性となる。
- 概念史上の連続性(論説): LARは「新発見」ではなく、1980年代の鼻誘発試験の導入時から、典型症状はあるがアレルギー検査陰性の症例として認識・治療されてきた疾患であり、「nasal」と「local」の用語の整理が課題とする専門家論説がある(confidence:low・abstract暫定。新規の疫学/診断/治療データはなく概念史の補強に留まる) 。
疫学
- 有病率は地域・診断法により大きく変動する。アジアで低値(0–20%)・地中海諸国(スペイン/ポルトガル/イタリア/ギリシャ)で高値という地域差が一貫して報告される。
- 全身的アトピー未確認の鼻炎症状者を母数とするスペインの研究では 50–75% に LAR。慢性鼻炎一般コホートでは 17.6–25%(Bożek: 621例中109例=17.6%、Krajewska-Wojtys: 84例中25%)。
- 別総説の集計では、鼻炎症状を呈する成人で LAR 21–62.5%、小児で 3–66.7% と研究間で大きく変動(対象集団・被疑アレルゲン・研究手技の差による)。dual allergic rhinitis(DAR)の推定有病率は小児11.6%・成人82.1%で、AR と LAR の併存が疫学研究の設計をさらに困難にする。
- アジアの低報告値は「真に有病率が低い」のか「都市化・大気汚染・高ダニ曝露による非アトピー性鼻炎の多さ/診断手技の未整備・方法論差による過小評価」なのか未決着で、診断基準の精緻化が課題(confidence:medium)。
- アレルゲン: ダニ(D. pteronyssinus / D. farinae)が通年性 LAR の主因、イネ科花粉・Alternaria が季節性。日本ではスギ花粉・ダニが主アレルゲンとの小規模報告。
病態・基礎
- 鼻粘膜での 2型(Type 2)炎症: マスト細胞・好酸球の即時活性化が観察され、トリプターゼ・好酸球陽イオン蛋白(ECP)などの炎症メディエータを放出する。
- 局所アレルゲン特異的IgEが鼻粘膜・鼻汁中で産生され、鼻誘発試験後24時間で鼻粘膜にアレルゲン特異的IgE抗体が観察される。鼻粘膜での IgE+ B細胞増加(Powe, in situ hybridization)が示され、BAT は wortmannin(PI3K阻害でIgE依存性活性化を抑制)で阻害されることから IgE 依存性機序が支持される。
- 局所IgE産生のB細胞機序(近年知見): LAR粘膜ではsequential class switch recombinationのIgEマーカー増加とIgE⁺CD38⁺ plasmablastの蓄積が示され、末梢血B細胞では粘膜ホーミング受容体CXCR3⁺/CXCR4の発現増加とTh9/Th2細胞の蓄積を伴う。鼻粘膜局所での連続的クラススイッチ→IgE産生細胞分化という機序を支持する(専門家総説、confidence:medium・abstract暫定) 。
- LAR表現型のバイオマーカー候補として IL-5・IL-13・IL-10・TGF-β・IL-17・TSLP・MCP-4・Eotaxin-3 などが検討されているが、確立したマーカーはなく探索が続く(confidence:low)。
- SPT/血清IgE陰性の機序仮説: 局所産生IgEは effector 細胞上の FcεRI を飽和させて初めて全身循環へ漏出する。LAR では IgE産生量が鼻外組織に届くほどに達しないため、SPT 陰性・血清IgE検出不能となる一方、NAC(および多くで BAT)は陽性となる。
- 好酸球増多を伴う非アレルギー性鼻炎(NARES)との重複が新たな課題で、鼻好酸球(nEo)が両者の予備的鑑別マーカーとなる(陽性なら確定にNAPTを要する)。Charcot–Leyden結晶(CLC)はNARES患者で健常より有意に高値で鑑別に資する可能性がある。
- 局所IgE産生は鼻粘膜に限らず上気道リンパ組織全般で起こりうる: アデノイド/扁桃肥大組織でも局所アレルゲン感作・B細胞クラススイッチ・局所IgE産生(=局所アトピー)が観察され、これがARや喘息の発症(アトピーマーチ)に関与しうる。アデノ扁桃組織は循環特異的IgEの相当部分を担い、他臓器のアトピーにも寄与しうると整理される(LARの局所IgE産生概念を上気道リンパ組織へ拡張した間接的知見・ナラティブレビュー・confidence:low・abstract暫定) 。
- AR全体を「全身性免疫調節異常」と捉え直す視点: ARは末梢好酸球増多・Th細胞分極の変化・循環サイトカイン不均衡を伴い、喘息・アトピー性皮膚炎との併存(統一気道・全身アレルギー疾患スペクトラム)に寄与すると整理される。LARが「全身検査陰性=局所限局」の対極に位置づくのに対し、全身感作ARでは局所/全身の両面の免疫病態が連続する(AR一般対象でLAR特異ではない・ナラティブレビュー・confidence:low・abstract暫定) 。
診断
- 鼻誘発試験(nasal allergen challenge, NAC / NAPT)がゴールドスタンダード。EAACI(2018)・AAAAI(2023)が標準化法を公表している。
- 全身的検査(皮膚プリックテスト・血清特異的IgE)が陰性であることが前提で、これらが陰性でも症状が典型的な場合に LAR を鑑別に挙げる。
- NAC の標準手順: 鼻内視鏡で開存性確認・他病態/解剖異常除外(別日)→ 室内環境順応20分 → ベースラインの主観(症状スコア: Lebel/Linder, VAS)・客観(音響鼻腔計測・peak nasal inspiratory flow・前部鼻腔通気度)測定 → 希釈液による対照負荷で鼻過敏除外 → アレルゲン投与(マイクロピペットまたはスプレー)→ 10–15分後再評価。
- 陽性基準(EAACI): 客観・主観パラメータの同時の中等度変化、または1パラメータの明瞭な変化。音響鼻腔計測で下鼻甲介頭部対応面積の ≥25% 低下が良好な精度との報告。陽性反応後60分で安全に帰宅可。
- 補助検査: 鼻汁/鼻洗浄液中の特異的IgE(小児で鼻洗浄液IgE cut-off 3.85 IU/mL の報告, p<0.0001)、好塩基球活性化試験(BAT)、鼻細胞診。LAR専門家総説は NAPT・局所IgE評価・BAT・鼻細胞診を束ねた診断アプローチを提案する(具体アルゴリズムは全文未取得・confidence:low)。
- 鼻局所IgE単独陽性での診断は慎重を要する: Gelardi(2016) は AR/NAR/健常の全3群で鼻局所アレルゲン特異的IgEを検出し、局所IgE産生は環境因子への非特異的免疫応答の一部でありうると報告した。鼻局所asIgE陽性のみでLARと確定せず、症状とアレルゲン曝露の相関・NAPTで裏づける必要がある(偽陽性リスク)。鼻汁sIgE測定は採取手技・希釈の影響を受け標準化が未達。
- Th2関連マーカーの診断精度(MA・間接比較・21研究): NAPTを参照標準に、鼻好酸球(nEos)・鼻特異的IgE(nsIgE)・好塩基球活性化試験(BAT)の3マーカーをメタ解析・間接比較した結果、感度は48.1–69.1%といずれも低く、nsIgEは特異度100%だが感度48.1%(DOR・LR+が最高)、nEosは感度最高だが特異度最低(56.2%)、BATはLR-が最低。間接比較でBAT・nsIgEはnEosより有意に高感度。nsIgEとBATは診断補助になりうるが感度が低く、陰性結果はNAPTで確認すべきと結論し、補助検査の限界を定量的に示す(診断精度MA、confidence:medium・abstract暫定) 。
- 留意点: NAC はアレルゲン投与前4–21日の抗ヒスタミン薬/ステロイド/抗うつ薬の休薬が必要で、急性アレルギー反応に対応できる病院設定を要するためアクセスが課題。
- 将来展望: 全身検査が陰性/非確定のとき LAR 診断を助ける新規診断検査が期待される(汎ARの総説、LARは副次的言及・confidence:low)。
鑑別
- アレルギー性鼻炎(AR): 全身的アトピー(SPT/血清IgE陽性)を伴う点で区別。病態・症状は類似し、LAR は AR の subtype とみなす立場もある。
- 非アレルギー性鼻炎(NAR): 全身検査陰性で症状を呈する点で表面的には LAR と区別困難。NAR と診断された患者の相当割合(成人スペインで高率、小児で約1/3)が NAC 陽性で LAR と再分類されうる。
- NARES(好酸球増多を伴う非アレルギー性鼻炎)との重複は鼻好酸球で予備的に鑑別。
治療
対症療法・回避
- 治療は AR に準じる。第一段階はアレルゲン曝露の回避。
- 局所ステロイド・局所/経口抗ヒスタミン薬で大半の患者が改善または症状消失する。各対症薬のLAR特異的な効果量は未確立(confidence:low)。
アレルゲン特異的免疫療法(AIT)
- LAR は鼻粘膜局所が病態の主座のため、AIT が病態整合的な根治的選択肢となりうる。背骨の scoping review でも、イネ科花粉・ダニに対する SCIT/SLIT は安全で、耐性誘導・症状/レスキュー薬減少を示すと整理され、EUFOREA Allergic Rhinitis ガイドラインも LAR への AIT の短期有効性・安全性を支持している。メタ解析では症状・薬物スコア・QOL・sIgG4 の短期改善が示される一方、長期アウトカムと小児の研究が不足する。
- HDM-SLITの大規模MA(全身感作ARC・間接外挿): ダニ舌下免疫療法の成人・青年アレルギー性鼻結膜炎(ARC)への有効性を45研究30,288例(28研究でメタ解析)で統合した最新SR/MAで、鼻炎症状スコア(RSS)がプールSMD −0.98(95%CI −1.65〜−0.31, p<0.001)、鼻炎薬剤スコア(RMS)が −1.00(95%CI −1.80〜−0.20, p=0.01)と有意改善。治療関連AEはRR 1.16(95%CI 1.02〜1.33)でやや増加するが大半が軽度・局所・一過性。標準化HDM-SLITをHDM誘発ARCの基盤的疾患修飾治療と結論。対象は全身感作のARCでありLARへは間接外挿(confidence:medium・abstract暫定。I²/サブ群は全文要確認) 。
- AITの臨床評価(RCT+RWE統合・AR一般): SCIT・SLITいずれもRCT・MAで症状・薬剤使用を有意に減少しQOLを改善、大規模SLIT錠剤試験が成人・小児で有効性を確認、RWEがより広い集団での有効性を支持。安全性はSCITがSLITより全身反応リスクがわずかに高く、SLITは主に軽度局所反応。EAACI系著者によるナラティブレビューで、RCTとRWEの統合がガイドライン策定に不可欠と提言(AR一般対象・LARへは間接外挿・confidence:medium・abstract暫定) 。
- 混合アレルゲンAIT(小児・実臨床): AlternariaとOlea europaeaに共感作した鼻炎±喘息の小児49例への重合(アレルゴイド)混合抽出物SCITで、中等症〜重症鼻炎が84%→49%へ有意減少(p=0.001)、間欠的〜軽症喘息が8%→61%へ改善。424注射中局所反応0.47%・全身反応0%と高安全性。後ろ向き・単群・無対照・短期(中央値9か月)で交絡を排除できず、全身感作小児が対象(confidence:low・abstract暫定) 。
- LAR専門家総説でのAITエビデンス(4 DBPCRT・152名): Campo & Canonicaの専門家総説は、LARに対するAITの有用性が4件のDBPCRT・計152名で示されていると整理する。LARはARと独立した疾患実体で経時的に重症化・併存症増加するため、病態整合的なAITの確立が課題(専門家総説、confidence:medium・abstract暫定) 。
- 全身感作AR-SCITの新着(LARへは間接外挿): 鼻粘膜局所が病態主座のLARでは局所免疫指標が特に重要となりうる点で、以下のSCIT知見が参考になる。①HDM-SCIT大規模コホート(1584名)で多感作がSCIT有効性低下・局所反応増加の独立因子。②超急速SCITはクラスターSCITと同等有効・安全で導入期短縮(57名)。③鼻汁局所sIgE/sIgE-tIgE比がSCIT高反応者を予測しROC-AUCで血清を上回る(114名)=LARの「局所IgE」概念が治療反応予測にも通底する点で示唆的。いずれも全身感作AR対象でLARへは間接外挿(cohort、confidence:low-medium・abstract暫定)。
- LARを対象としたAITのSR/MA(RCT 4件156例+観察研究2件)では、皮下免疫療法(SCIT)がプラセボに比べ症状スコア・薬剤スコア・症状薬剤併合スコア・疾患特異的QOLを有意に改善した(confidence:medium・効果量は全文未取得で未確認)。
- 免疫学的には血清sIgG4が上昇する一方、血清sIgEは有意に変化しないという寛容誘導と整合するパターンが示された。
- 安全性は良好で重篤な有害事象なし。ただし全RCTが短期フォローのみで、治療中止後の効果持続を評価した研究はなく、効果は短期エビデンスに限られる。RCTが2研究ユニット由来に偏る点も一般化可能性の限界。
- SLIT(舌下)はLAR対象では観察研究1件のみで、舌下経路のLARへのエビデンスは不足。ただしLAR個別の小規模RCTは存在する(下記 Bożek 2試験)。
- LAR対象の個別RCT(Bożek): ①HDM-SLIT(LAR+喘息32例, SLIT 17 vs プラセボ15)で鼻炎スコア(TRSS)・喘息症状スコア(TASS)・併合症状スコア(TSS)・薬剤スコア(TMS)が低下し FEV1 が上昇。②カバノキ-SCIT(LAR 28例, SCIT 15 vs プラセボ13, 24か月)で症状薬剤スコア(SMS)低下・血清IgG4上昇・鼻Bet v 1特異的IgE低下、全身反応なしで良好な忍容性。いずれも小規模・単一研究グループ由来で、効果量の95%CI等は原典で未確認(confidence:medium〜low)。
局所鼻腔免疫療法(LNIT)
- LARは鼻粘膜局所が病態の主座のため、標的臓器に直接寛容を誘導する鼻腔局所免疫療法(LNIT)は病態整合的な経路となりうる。ただし下記エビデンスはAR一般が対象でLAR限定ではなく、外挿は間接的である(confidence:medium)。
- AR向けLNITのSR/MA(RCT 20件698例)では、TNSS(SMD −1.37, 95%CI −2.04〜−0.69)・症状薬剤スコア(SMD −1.55, 95%CI −2.83〜−0.28)・薬剤スコア(SMD −1.09, 95%CI −1.35〜−0.83)が有意に改善し、鼻誘発閾値も有意に上昇(MD 27.30, 95%CI 10.13〜44.46)した。
- 免疫学的には血清sIgE・鼻IgE・鼻ECPに有意差なく、血清IgGのみ有意に上昇(MD 0.45, 95%CI 0.20〜0.70)。重篤な有害事象の報告なし。
- LNITの実臨床コホート(324名): ダニ・花粉ARへの特異的LNIT 32週で、active群がプラセボ群より症状スコア・鼻誘発試験・前鼻鏡鼻抵抗を有意に改善(粘液線毛クリアランス時間は不変)。自宅施行可・全身反応が少ないSCIT/SLITの代替経路と位置づける。後ろ向き・単施設・盲検不明で対象は全身感作ARでありLARへは間接外挿(cohort、confidence:low・provisional-abstract) 。
リンパ節内免疫療法(ILIT)
- 少回数注射でアレルゲンをリンパ節に直接投与するリンパ節内免疫療法(ILIT)を扱った7件のSR/MAを再評価したアンブレラレビューでは、ILITは主観的症状スコアを改善し免疫寛容を誘導、グラス花粉・混合アレルゲンで特に有効で、軽度局所反応主体・SCITより全身反応が有意に少ない良好な安全性を示す。ただし長期有効性は限定的で、組入れSR/MAの方法論的質はAMSTAR-2でlow/very low、GRADEでも低品質結果が多数を占め、エビデンス確実性は低い。対象はAR一般でLAR特異ではなく外挿は間接的(confidence:low・abstract暫定)。
AITの一般運用原則(汎AR・LAR非特異/※全文未取得・暫定)
- 米国 AAO-HNSF の吸入アレルゲンAIT診療ガイドラインは SCIT/SLIT の標準運用を規定する(対象は皮膚テスト/血清IgEで確認される AR でありLARは明示的対象外のため、LARへは間接参照・confidence:low)。
- 主な推奨: 病歴と検査で確認された臨床的に関連するアレルゲンのみに限定(KAS7)、症状制御が得られた患者は最低3年治療(KAS12)、AIT施行者はアナフィラキシー対応可能であること(強い推奨, KAS10)、妊娠・コントロール不良喘息・注射用エピネフリン不耐では開始しない(KAS2A)。
- AIT は新規感作の予防・喘息発症リスク低減・自然史改変(中止後も持続効果)の利益が教育項目とされる(KAS5、ただし LAR 特異のエビデンスではない)。
予後・経過(※QOL影響は背骨で確認・進展はRondón10年追跡で具体化)
- LAR の QOL への影響は AR と同等とされる。
- Rondón らの10年前向き追跡(LAR 176例 vs 健常対照115例):
- 症状は 5年目以降に有意に増悪し10年にわたり進行、救急受診の著増・QOL低下を伴う。
- 10年で 17例(9.7%)が全身性アトピーへ進展したが、健常対照(9例, 7.8%)と有意差なし=LAR→全身ARへの進展は必ずしも高頻度ではない。
- 喘息は10年で30%超に発症し、LAR は喘息発症の有意なリスク因子と位置づけられる。
- 結膜炎の併存は 52.3%→61.9%(有意差なし)。
- 病態仮説上、局所IgE産生が経時的に全身感作へ進展しうる可能性が議論されるが、上記のとおり全身化は対照と有意差なく、自然経過・長期予後はなお未確立で縦断データは限定的。
小児のLAR
- 成人LARの疫学・診断・治療の知見は蓄積する一方、小児LARに関する情報は乏しい。
- 背骨の scoping review では、NAR と診断された小児の約1/3が実は LAR(Tsilochristou: AR72.1%/LAR8.1%/NAR19.8%)と整理され、ポーランド多施設(361例)で LAR 21%。診断率は西洋諸国(22.3–83.3%)で東洋諸国(3.7–16.6%)より高い。NAC は小児でも複数アレルゲンで安全・実施可能と報告される。
- 小児で全身的アトピー所見(プリックテスト・血清IgE)が陰性の鼻炎症状を呈する場合、LARを鑑別に挙げる必要があるが、小児特異的な有病率・診断カットオフ・治療方針は未確立。
最新トピック / 未解決の論点
- LARは比較的「新しい疾患実体」で、有病率・診断法・治療・予後のいずれも合意形成途上である。
- 有病率の地域差(アジア低値・地中海高値)が真の機序差か診断上の限界かは未決着で、診断基準の標準化・精緻化が課題。
- 非アレルギー性鼻炎(NAR)と診断された患者のうち成人で高率・小児で約1/3が LAR でありうるが、確定割合は地域・手技で変動(鑑別の重要論点)。
- AIT/LNITの効果は短期エビデンスに限られ、中止後の効果持続・長期予後を評価したLARのRCTは存在しない。
- LNITのエビデンスはAR一般対象でありLAR特異的な有効性は間接的。SLITのLARへの有効性も観察研究のみで不足。
- 小児LARはエビデンスが特に乏しく、有病率・診断・治療が未確立。
- NAC は標準化法(EAACI 2018 / AAAAI 2023)が整いつつあるが、病院設定・休薬・アクセスの制約があり、新規診断検査(鼻汁sIgE・BAT等)の整備が期待される。
関連トピック
- アレルギー性鼻炎 — 全身性アレルギー性鼻炎。LARは全身検査陰性で区別される対概念
- 非アレルギー性鼻炎 — 非アレルギー性鼻炎。一部はLARの可能性があり鑑別対象
- 舌下免疫療法(SLIT) — 舌下免疫療法。LARに対するAITの一形態として関連
更新履歴
- 2026-06-04(鼻科バックフィル第3陣・1件): 定義・概念にLARの概念史連続性の論説(LARは新発見でなく1980年代の鼻誘発試験導入時から認識・治療されてきた/用語整理が課題)を反映。confidence:low・provisional-abstract。既収載の概念史と重複が大きく参照追加+補強に留める。paper_count 22→23。
- 2026-06-04(SLIT/AITバックフィル第2陣・5件): 病態にLAR粘膜のsequential class switch recombination/IgE⁺CD38⁺ plasmablast蓄積/B細胞CXCR3⁺・CXCR4ホーミング/Th9・Th2蓄積を反映。LNITに実臨床コホート324名(症状/鼻誘発/鼻抵抗改善・自宅施行可・全身反応少)、AITにCampo総説の4 DBPCRT・152名のエビデンスと全身感作AR-SCIT新着3件(多感作=有効性低下独立因子・超急速SCIT≒クラスター・鼻汁局所sIgEがSCIT反応予測でAUC血清超、いずれもLARへは間接外挿)を反映。confidence:medium-low・provisional-abstract。paper_count 17→22。
- 2026-06-04(新着SLIT/AIT上乗せ・6件): 治療にHDM-SLITの大規模MA(45研究30,288例・RSS SMD−0.98/RMS−1.00・全身感作ARC対象で間接外挿)、ILITアンブレラ(7 SR/MA再評価・有効だがエビデンス質low/very low)、AIT臨床評価(RCT+RWE統合・SCITはSLITより全身反応やや多い)、混合アレルゲンAIT小児(共感作49例・重症度改善・高安全性・後ろ向き単群)を反映。病態にアデノ扁桃の局所アトピー(局所IgE産生をリンパ組織へ拡張)、ARの全身性免疫調節(統一気道・LARの対極)を反映。いずれもAR一般対象でLARへは間接外挿・abstract暫定。paper_count 11→17。
- 2026-06-04(横断スイープ・新着上乗せ): Th2関連マーカーの診断精度MA(21研究・NAPT参照標準、nsIgE特異度100%/感度48%・BATはLR-最低・nEosは感度高/特異度低、間接比較)を「診断」節に反映。nsIgE/BATは補助だが感度低く陰性はNAPT確認が必要。confidence:medium・provisional-abstract。paper_count 10→11。
- 2026-06-04: LAR診断管理課題総説を全文精読して反映。疫学(成人21–62.5%/小児3–66.7%・DAR小児11.6%成人82.1%)、病態(IL-5/13等バイオマーカー候補・鼻IgE+ B細胞/wortmannin機序・NARES鑑別のCLC)、診断(Gelardi 2016の局所IgE偽陽性警鐘・鼻汁sIgE標準化未達)、予後(Rondón 10年追跡: 9.7%全身アトピー化[対照と有意差なし]・30%超喘息発症・5年目以降増悪)、治療(Bożek HDM-SLIT・カバノキSCITの2 RCT具体値)を充実。LAR専門家総説(非OA・provisional-abstract)で診断アプローチ提案を併記。AITナノ粒子・デジタルバイオマーカー・小児AIT安全性・ARIA開発方法論は汎AR/AIT/GL方法論一般でLAR非該当のため却下。paper_count 8→10。
- 2026-06-03: 背骨を 2024 scoping review(全文精読・PRISMA)へ格上げし、定義の概念史(entopy/Róndon)・疫学(地域差・dual AR・主アレルゲン)・病態(FcεRI飽和仮説・NARES鑑別)・診断(NAC標準手順/陽性基準/補助検査)・治療(AIT短期有効/EUFOREA)・小児(NARの約1/3がLAR)・QOL同等を全文で充実。アジアの地域差総説、AITガイドライン(汎AR・低confidence)、AR新規診断治療総説(診断展望・低confidence)を追加。AIT for asthma・舌下錠AITのアナフィラキシーはLAR非該当で却下。paper_count 4→8。
- 2026-06-03: 治療をLAR向けAITのSR/MAとAR向けLNITのSR/MAで補強(SCITによる症状/薬剤/QOL改善・sIgG4上昇/sIgE不変・短期限定、LNITの効果量と鼻誘発閾値上昇)、小児LARの研究ギャップを論説で追加。ARIA-EAACI GL 2024-2025 Part Iは全文確認の結果LAR言及なしで不採用、PFAS[39278756]・MSC[40251675]はscope外で却下。paper_count 1→4。
- 2026-06-01: 初版作成(abstract-only 暫定)。ナラティブレビューを弱い暫定背骨として、定義・診断(鼻誘発試験)・治療(AR標準治療+AIT)・未解決論点を反映 。SR/MA・診断研究・AIT RCT取得を次回優先。
参照論文
- — 背骨: LARの定義史・疫学(地域差/dual AR)・病態(2型炎症/FcεRI飽和仮説)・診断(NAC gold standard/補助検査)・治療(AIT短期有効)・小児(NARの約1/3)を全文で網羅 (Berghi 2024, Life / narrative-review[scoping, PRISMA] / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:medium / 全文精読)
- — 疫学: アジアのLAR有病率は低値(0–20%)で地中海諸国より低く、環境(都市化/汚染/ダニ)・診断法の差が要因 (Hamizan 2025, Curr Opin Allergy Clin Immunol / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:medium / 暫定)
- — 治療: 吸入アレルゲンAIT(SCIT/SLIT)の運用GL(関連アレルゲン限定/最低3年/アナフィラキシー対応)。汎AR対象でLAR非特異 (Gurgel 2024, Otolaryngol Head Neck Surg / guideline / Lv.1 / RoB:low / confidence:low / 暫定)
- — 診断: 全身検査陰性例でLARを診断しうる新規検査の展望(汎AR総説でLARは副次的言及) (Barrett & Roland 2024, Otolaryngol Clin North Am / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:low / 暫定)
- — 統合: LARは局所IgEを伴う2型鼻炎症で全身検査では診断できず鼻誘発試験を要する (Manole 2024, Eur Rev Med Pharmacol Sci / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:low / 暫定)
- — 治療: LAR向けSCITは症状/薬剤/QOLを改善しsIgG4上昇・sIgE不変、短期エビデンス限定・重篤有害事象なし (Hoang 2022, Rhinology / sr-ma / Lv.1 / RoB:some-concerns / confidence:medium / 暫定)
- — 治療: AR向けLNITはTNSS/SMS/薬剤スコアと鼻誘発閾値を改善・血清IgG上昇(LAR外挿は間接的) (Kasemsuk 2022, Int Forum Allergy Rhinol / sr-ma / Lv.1 / RoB:some-concerns / confidence:medium / 暫定)
- — 小児: 小児LARはエビデンスが乏しく診断・治療・有病率が未確立で体系的評価が必要 (Bożek 2023, Rhinology / expert-opinion / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:low / 暫定)
- — 統合: LARの概念史・アレルゲン別局所感作・病態(2型炎症/バイオマーカー候補/IgE+B細胞)・Rondón10年追跡(9.7%全身化[対照と有意差なし]/30%超喘息)・Bożek AIT2試験・Gelardi局所IgE偽陽性警鐘を全文で網羅 (Mortada & Kurowski 2023, Medicina / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:medium / 全文精読)
- — 診断: LAR専門家がNAPT・局所IgE・BAT・鼻細胞診を束ねた診断アプローチを提案、長期追跡RCT/多施設研究の必要を提起 (Melone 2023, Int Arch Allergy Immunol / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:low / 暫定)
- — 診断(MA): LAR診断のTh2マーカーをNAPT基準で比較、nsIgE特異度100%/感度48%・BATはLR-最低・nEosは感度高/特異度低、いずれも低感度で陰性はNAPT確認要(21研究) (Hoang 2026, Rhinology / diagnostic-accuracy / Lv.2 / QUADAS-2:some-concerns / confidence:medium / 暫定)
- — 治療(MA): HDM-SLITが成人/青年ARCのRSS(SMD−0.98)/RMS(SMD−1.00)を改善・AEは軽度局所主体、基盤的疾患修飾治療(45研究30,288例・全身感作ARC対象でLARへは間接外挿) (Alqutub 2026, Int Arch Allergy Immunol / sr-ma / Lv.1 / AMSTAR-2:some-concerns / confidence:medium / 暫定)
- — 治療(アンブレラ): AR向けILITは症状改善・免疫寛容誘導・SCITより全身反応少だが長期効果限定・組入れ7 SR/MAの質low/very low(AR一般対象でLARへは間接外挿) (Wang 2025, Front Med / sr-ma(umbrella) / Lv.1 / AMSTAR-2:low / confidence:low / 暫定)
- — 治療: AR向けSCIT/SLITは症状/薬剤/QOL改善、SCITはSLITより全身反応リスクやや高い(RCT+RWE統合・AR一般対象でLARへは間接外挿) (Catamerò 2026, Vaccines / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:medium / 暫定)
- — 治療(小児): Alternaria+Olea共感作小児への重合混合アレルゲンSCITが鼻炎/喘息重症度・薬剤を低減・高安全性(局所0.47%/全身0%)、後ろ向き単群49例 (Torres-Borrego 2026, Allergol Immunopathol / cohort / Lv.4 / ROBINS-I:high / confidence:low / 暫定)
- — 病態: アデノ扁桃組織の局所アトピー(局所感作/B細胞クラススイッチ/局所IgE産生)がアトピーマーチに寄与、AIT併用が術後再発低減(局所IgE概念のリンパ組織拡張) (Zamani 2026, Allergol Immunopathol / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:low / 暫定)
- — 病態: ARは末梢好酸球増多/Th分極変化/循環サイトカイン不均衡を伴う全身性免疫調節異常で喘息/AD併存に寄与(統一気道・LARの対極・AR一般対象) (Hui 2026, J Asthma Allergy / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:low / 暫定)
- — 病態/治療: LAR専門家総説。粘膜のsequential class switch recombination・IgE⁺CD38⁺ plasmablast蓄積・B細胞CXCR3⁺/CXCR4ホーミング・Th9/Th2蓄積、AIT有用性4 DBPCRT・152名 (Campo & Canonica 2024, J Allergy Clin Immunol Pract / narrative-review / Lv.5 / RoB:n/a / confidence:medium / 暫定)
- — 治療(LNIT・コホート): ダニ/花粉AR 324名への特異的LNIT 32週で症状/鼻誘発/鼻抵抗を改善・自宅施行可/全身反応少、後ろ向き単施設で全身感作AR対象・LARへ間接外挿 (Scarpa 2023, Am J Otolaryngol / cohort / Lv.4 / ROBINS-I:high / confidence:low / 暫定)
- — 治療(SCIT・コホート): 多感作はHDM-SCIT有効性低下/局所反応増加の独立因子(1584名・傾向スコアマッチング)、AR一般対象でLARへ間接外挿 (Yuan 2026, Otolaryngol Head Neck Surg / cohort / Lv.3 / ROBINS-I:some-concerns / confidence:medium / 暫定)
- — 治療(SCIT・前向き): 超急速SCITはクラスターSCITと同等有効/安全で導入期短縮(57名)、IL-10上昇/Th2低下/sIgG4上昇、AR一般対象でLARへ間接外挿 (Xiong 2026, World Allergy Organ J / cohort / Lv.3 / ROBINS-I:high / confidence:low / 暫定 / OA)
- — 治療(SCIT・BM): 鼻汁局所sIgE/sIgE-tIgE比がHDM-SCIT高反応者を予測しAUCで血清超(114名)、局所IgE概念が治療反応予測に通底・AR対象でLARへ間接外挿 (Xu 2026, Int Forum Allergy Rhinol / cohort / Lv.3 / ROBINS-I:some-concerns / confidence:medium / 暫定)
- — 概念史(論説): LARは新発見でなく1980年代の鼻誘発試験導入時から認識・治療されてきた、「nasal」と「local」の用語整理が課題 (Bellussi 2023, Multidiscip Respir Med / expert-opinion / Lv.5 / RoB:n/a / OA / confidence:low / provisional-abstract)